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大阪地方裁判所 昭和42年(ワ)6751号 判決 1977年3月28日

亡浜田ナミ遺言執行者千田専治郎訴訟承継人

原告(反訴被告)

三田武

右訴訟代理人

中島三郎

外一名

被告

永井スエコ

右訴訟代理人

佐藤哲

亡新宅梅太郎訴訟承継人

被告(反訴原告)

新宅梅男

右訴訟代理人

松岡康毅

主文

原告(反訴被告)の被告永井スエコに対する本訴請求を棄却する。

被告(反訴原告)新宅梅男は、原告(反訴被告)に対し別紙目録(三)に記載の建物を収去して、同目録(四)に記載の土地を明渡し、かつ、昭和四七年八月三一日から昭和四九年二月末日まで一か月金二万円、同四九年三月一日から右明渡ずみに至るまで一か月金二万八五〇〇円の各割合による金員を支払え。

原告(反訴被告)の被告(反訴原告)新宅梅男に対するその余の本訴請求を棄却する。

被告(反訴原告)新宅梅男の反訴請求を棄却する。

訴訟費用は、原告(反訴被告)と被告永井スエコとの間においては、全部原告(反訴被告)の負担とし、原告(反訴被告)と被告(反訴原告)新宅梅男との間においては、本訴反訴を通じ、原告(反訴被告)について生じた費用を二分し、その一を(反訴原告)新宅梅男の負担とし、その余は各自の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一、原告の本訴請求の趣旨

1  被告永井スエコは、原告(反訴被告、以下単に原告という。)に対し、別紙目録(一)に記載の建物を収去して、同目録(二)に記載の土地を明渡し、かつ、昭和四七年八月三一日から右明渡ずみに至るまで、一か月につき金三万円の割合による金員を支払え。

2  被告(反訴原告、以下単に被告という。)新宅梅男は、原告に対し、別紙目録(三)に記載の建物を収去して同目録(四)に記載の土地を明渡し、かつ、昭和四七年八月三一日から右明渡ずみに至るまで、一か月につき金三万円の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、被告らの負担とする。

4  仮執行宣言

二、本訴請求の趣旨に対する被告両名の答弁

1  本訴請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

三、被告新宅梅男の反訴請求の趣旨

1  被告新宅梅男と原告との間において、被告新宅梅男が別紙目録(四)に記載の土地について、左記内容の賃借権を有することを確認する。

賃貸借契約締結の日 昭和二九年四月七日

賃貸期間 定めなし

賃貸の目的 建物所有

賃料 一か月金三三〇円

賃料支払期 毎月末日当月分を支払う。

賃貸人 原告

2  反訴費用は、原告の負担とする。

四、反訴請求の趣旨に対する原告の答弁

1  主文第四項と同旨

2  反訴費用は、被告新宅梅男の負担とする。

第二  当事者の主張

一、本訴請求原因

1  大阪府東大阪市長田一六六番の一(但し、後記換地処分前の旧地番)宅地二四六坪(813.22平方メートル)(以下旧一六六番の一の土地あるいは従前地という。)は、もと訴外浜田ナミの所有であつたところ、右浜田ナミは、昭和二八年一一月七日、その財産を原告に包括遺贈する旨の遺言を作成し、同月一七日に死亡したので、本訴原告は、右同日、包括遺贈によつて、右土地の所有権を取得した。

2  その後、右一六六番の一の土地については、東大阪都市計画土地区画整理事業(以下本件土地区画整理事業という。)の施行により、昭和四一年一一月一〇日、右区画整理事業施行地区九八ブロツク符号七の二宅地703.00平方メートル(以下本件仮換地という。)の土地がその仮換地に指定され、次いで、昭和四八年一一月一七日に公告された換地処分の結果、右従前の一六六番の一の土地は、東大阪市長田西一丁目四八番宅地703.87平方メートル(以下四八番の土地あるいは換地という。)の土地となつた。

3  その後、原告は、昭和四九年二月五日、右四八番の土地を、同所四八番一の土地(その一部が別紙目録(二)に記載の土地)、同所四八番二の土地(別紙目録(四)に記載の土地)、その他同所四八番三ないし九の合計九筆の土地に分筆した。

従つて、原告は、昭和四一年一一月以降本件仮換地の使用収益権を有し、また、前記換地処分のなされた昭和四八年一一月以降引続き現在に至るまで別紙目録(二)及び(四)に記載の各土地(但し、分筆前はそれに該当する四八番の土地の一部――以下すべて同じ)を所有している。

4  ところで、被告永井スエコの亡夫永井久太郎は、かねて亡浜田ナミから、旧一六六番の一の土地及びその隣接地のうち、別紙目録(一)に記載の建物敷地部分のうち約109.09平方メートルを、建物所有の目的で賃料は、亡浜田ナミ死亡当時、一か月一坪(3.3平方メートル)当り金一四円で賃借し、右土地上に、別紙目録(一)に記載の建物を所有していたところ、前述の通り、原告は、亡浜田ナミから右一六六番の一の土地及びその隣接地の遺贈を受けてその所有権を取得すると共に、その賃貸人たる地位を承継し、また、亡永井久太郎もその後死亡して、被告スエコが右賃借権を相続により取得した。

ところが、被告永井スエコは、昭和二九年五月一日以降の前記賃借権の賃料を支払わなかつたので、亡浜田ナミの遺言執行者であつた千田専治郎(昭和二九年五月一日遺言執行者に就任)は、被告永井スエコに対し、昭和四二年五月二三日付の書面で、右書面到達の日から五日以内に、昭和二九年五月一日から同四二年五月二三日までの前記賃借地の賃料一か月金三三〇円の割合による合計金五万一四八〇円全額を支払うよう催告するとともに、右期間内にこれを支払わないときは、右賃貸借契約を解除する旨の意思表示をし、右書面は、翌二四日に同被告に到達したところ、同被告は右書面到達後五日以内に、右賃料を支払わなかつたので、同被告との賃貸借契約は、昭和四二年五月二九日に限り解除された。そして、その後昭和四六年六月、右遺言執行者千田専治郎は就任し、その任務は終了したので、被告永井スエコは、右賃貸借契約終了に基づき原告に対し、別紙目録(一)に記載の建物を収去して、当初賃借した旧一六六番の一の土地の一部の換地である別紙目録(二)に記載の土地を明渡す義務がある。

5  しかるに被告永井スエコは、右賃貸借契約終了後も右明渡をせず、以後引続き現在まで、本件仮換地のうち現在の別紙目録(二)に記載の土地に相当する部分、及び、前記換地処分後は、別紙目録(二)に記載の土地(但し、分筆前はこれに相当する四八番の土地の一部)の上に、別紙目録(一)に記載の建物を所有して、原告に対抗しうる何らの権原もなく不法に右土地を占有している。

6  次に、訴外新宅梅太郎は、遅くとも昭和四七年八月三一日以降、本件仮換地のうち、現在の別紙目録(四)に記載の土地に相当する土地部分に、同目録(三)に記載の建物を所有して、原告に対抗しうる何らの権原もなく不法に右土地を占有していた。

そして、同年一二月二三日、同人が死亡した後は、被告新宅梅男が、協議による遺産分割によつて、右土地及び建物に関する同人の権利義務を単独相続し、引続き右仮換地及び前記換地処分後は、別紙目録(四)に記載の土地(但し、分筆前はこれに相当する四八番の土地の一部)の上に、別紙目録(三)に記載の建物を所有して、原告に対抗しうる何らの権原もなく不法に、右土地を占有している。

7  次に、別紙目録(二)及び(四)に記載の各土地(前記換地処分前は、本件仮換地のうち、右各土地に相当する部分)の賃料相当損害金は、昭和四七年八月三一日以降いずれも少なくとも一か月金三万円を下らない。

8  よつて原告は、被告永井スエコに対しては、別紙目録(二)に記載の土地の所有権(前記換地処分前の賃料相当損害金の請求については、本件仮換地のうち、右土地に相当する部分の使用収益権)ないしは前記賃貸借契約の終了に基づき(選択的併合)、同目録(一)に記載の建物を収去して、右土地を明渡し、かつ、右賃貸借契約終了後で同被告が右土地を不法に占有し始めた後の昭和四七年八月三一日から右明渡ずみに至るまで、一か月につき、金三万円の割合による賃料相当損害金の支払を求め、被告新宅梅男に対しては、同目録(四)に記載の土地の所有権(前記換地処分前の賃料相当損害金の請求については、本件仮換地のうち、右土地に相当する土地部分の使用収益権)に基づき、同目録(三)に記載の建物を収去して右土地を明渡し、かつ、同被告の被相続人訴外新宅梅太郎が右土地を不法に占有し始めた後の昭和四七年八月三一日から右明渡ずみに至るまで、一か月金三万円の割合による賃料相当の損害金(但し、右新宅梅太郎死亡前の分は、右被告がこれを相続したもの)の支払を求める。

二、原告主張の請求原因に対する被告永井スエコの認否並びに主張

1  原告主張の請求原因1の事実のうち、旧一六六番の一の土地がもと訴外亡浜田ナミの所有であつたこと、同人が昭和二八年一一月一七日に死亡したことは認めるが、その余は不知。

同2の事実のうち、旧一六六番の一の土地について原告主張のような仮換地の指定及び換地処分がなされたことは認めるが、その余は争う。

同3の事実のうち、原告がその主張の日に四八番の土地をその主張のように分筆したことは認めるが、その余は争う。

同4の事実のうち、被告永井スエコの亡夫永井久太郎が、亡浜田ナミから原告主張の土地部分(但し、その面積は争う。)を建物所有の目的で賃借し、同地上に別紙目録(一)に記載の建物を所有していたこと、その後亡永井久太郎が死亡して被告永井スエコが相続により右賃借権を取得したこと、亡浜田ナミの遺言執行者であつた訴外千田専治郎から原告主張のころその主張の如く賃料の支払催告及び停止条件付解除の意思表示があつたことは、いずれも認めるが、その余は争う。右賃料額は、亡浜田ナミ死亡当時一か月金61.02円(一坪―3.3平方メートル―当り金1.53円の割合で、借地面積を四〇坪―132.23平方メートル―として計算していた。)であつた。

同5の事実のうち、原告主張のころから被告永井スエコが別紙図面に表示のイ、ロ'、ハ'、ニ'、ホ、イの各点を順次直線で結んだ線内に土地上に別紙目録一に記載の建物を所有して右土地部分を占有していることは認めるが、その余は争う。

同7の事実は争う。

2  仮に、原告が、その後に原告主張の包括遺贈によつて、旧一六六番の一の土地等被告永井スエコの賃借している土地についてその所有権を取得し、訴外千田専治郎が前記遺言の遺言執行者に就任したとしても、右遺言執行者の千田専次郎が被告永井スエコに対して、前記賃料の支払催告及び賃貸借契約の解除の意思表示をした当時には、原告は、右土地について、その所有権取得登記を経由していなかつたから、亡浜田ナミの遺言執行者であつた千田専治郎及び原告は、同被告に対し、原告が右土地の所有者であつて、かつ、その賃貸人であることを対抗できず、右賃料の支払催告及び契約解除の意思表示は無効である。

3  仮に右主張に理由がないとしても、被告永井スエコは、昭和三八年五月ころ、交通事故で頭部外傷を受け約一か月入院したが、その退院後も神経症状が残り、通常人に比べ、判断力、記憶力が著しく低下し、昭和四二年五月ころも右の状態にあつたもので、亡浜田ナミの遺言執行者千田専次郎が原告主張の賃料の支払催告及び停止条件付解除の意思表示をなしたときには、その受領能力を欠いていたから、右賃料の支払催告及び停止条件付解除の意思表示は無効である。

4  仮に、以上の主張に理由がないとしても、訴外亡浜田ナミの死亡後、同人の指定相続人である訴外浜田敏夫が公然とその相続人として振舞い、また旧一六六番の一の土地その他亡浜田ナミの所有不動産が右浜田敏夫所有名義に登記される等したため、被告永井スエコは、右浜田敏夫が亡浜田ナミの相続人であり、旧一六六番の一等の土地の所有者であると信じて、同人の求めに応じ、同人に対して別紙目録(一)に記載の建物の敷地である旧一六六番の一の土地等の賃借地の賃料を支払い続けてきた。

そして、その後、被告新宅梅男の後記主張三の3に記載の通り、原告は、昭和四五年九月一八日、訴外浜田敏男と裁判上の和解をし、これによつて、同人の右賃料の受領行為をすべて是認或は追認したものというべきであつて、被告永井スエコの賃料不払の責任はこれによつてなくなり、解除の効力も消滅したものというべきであるから、原告の前記契約解除の主張は理由がない。

5  次に、前述の通り、被告永井スエコは、別紙目録(一)に記載の建物の敷地である旧一六六番の一等の土地の一部約四〇坪(132.23平方メートル)について適法に賃借権を有していたところ、本件土地区画整理事業施行の東大阪市は、被告永井スエコを右賃借権につき、同被告に対し、本件仮換地のうち、現在の別紙図面に表示のイ'ロ"ロ'ハ'ニ'ホイイ'の各点を順次直線で結んだ線内の土地部分を、仮に賃借権の目的となるべき部分として指定し、その効力発生の日を昭和四八年六月三日と定める旨の通知をし、次いで、同年九月二〇日ころ、四八番の換地のうち右土地部分を、右賃借権の目的となるべき部分と定める旨の換地処分を通知し右換地処分は、同年一一月一七日に公告された。

従つて、被告永井スエコは、旧一六六番の一の土地の換地である別紙目録(二)に記載の土地のうち別紙図面に表示のイロ'ハ'ニ'ホイの各点を順次直線で結んだ線内の土地について、原告に対抗しうる賃借権を適法に有している。

なお、被告永井スエコは、別紙目録(二)に記載の土地のうち右図面に表示のイロ'ハ'ニ'ホイの各点を順次直線で結んだ線内の土地以外は、占有していない。

6  仮に、以上の主張に理由がないとしても、被告新宅梅男の後記主張三の4に記載と同様の事由により、本訴原告の被告永井スエコに対する本訴請求は、権利の濫用であつて許されない。

7  原告の後記四の2の主張は争う。

三、原告主張の請求原因に対する被告新宅梅男の認否並びに主張

1  原告主張の請求原因1の事実のうち、旧一六六番の一の土地が、もと訴外亡浜田ナミの所有であつたこと同人が昭和二八年一一月一七日に死亡したことは認めるが、その余は不知。

同2の事実のうち、旧一六六番の一の土地についてその主張のような仮換地の指定及び換地処分が同3の事実のうち、原告がその主張の日に四八番の土地をその主張の如く分筆したことは認めるが、その余は争う。

同6の事実のうち、原告に対抗しうる何らの権原もなく不法にとある部分は争い、その余は認める。

同7は争う。

2  仮に、原告が、別紙目録(四)に記載の土地を所有しているとしても、被告新宅梅男の先代亡新宅梅太郎は、次のとおり、右土地の賃借権を時効取得し、被告新宅梅男は、これを相続によつて承継したものである。

すなわち、

(一) 旧一六六番の一の土地の換地の一部である現在の別紙目録(四)に記載の土地のあるところは、もと東大阪市長田一六七番の一(但し、後記換地処分前の旧番地)田204.95平方メートル(以下旧一六七番の一の土地という。)の土地の一部に当るところであり、右一六七番の一の土地は、もと訴外亡浜田ナミの所有であつた。

そして右亡浜田ナミの死亡後は、その推定法定相続人である訴外浜田敏夫が、旧一六七番の一の土地の所有権取得登記を経由し、また、自らも右浜田ナミの相続人であつて、右土地の所有者であると称していた。

(二) このため、訴外亡新宅梅太郎は、訴外浜田敏夫が旧一六七番の一の土地の所有者であると信じ、昭和二九年四月七日、同人から、右旧一六七番の一の土地のうち現在の別紙目録(四)に記載の土地に当る土地部分を建物所有の目的で期間の定めなく賃借して、その引渡しを受け、直ちに、右地上に別紙目録(三)に記載の建物を建築所有し、その後昭和四〇年までは毎年末に、以後は毎月末に、右訴外浜田敏夫に対して、右土地の賃料を支払つてきた。

なお、右賃料の額は、昭和四三年一月分以降は一か月金三三〇円であつた。

(三) 以上のとおり、訴外亡新宅梅太郎は、昭和二九年四月七日から一〇年間、賃借の意思をもつて、平穏かつ公然に、旧一六七番の一の土地のうち、現在の別紙目録(四)に記載の土地に相当する土地部分を占有して賃借人としての権利を行使し、かつ、右賃借占有の始めにおいて善意かつ無過失であつたから、右一〇年を経過した昭和三九年四月六日の経過により右土地部分に対する賃借権を、時効により取得した。

(四) なお、その後、右亡新宅梅太郎の賃借占有していた旧一六七番の一の土地の一部を、原告主張のように、旧一六六番の一の土地の仮換地及び換地とする旨の仮換地の指定及び換地処分がなされた結果、右旧一六七番の一の土地の一部の地番等は原告主張のように変更されたが、訴外亡新宅梅太郎やその後同人の権利義務を承継した被告新宅梅男が現実に賃借占有している土地に変動はなく(この意味では現地換地に当る)、それによつて、同人が時効取得した賃借権が消滅しあるいは変容するものではない。そして、別紙目録(四)に記載の土地は亡新宅梅太郎が時効によつて賃借権を取得した旧一六七番の一の土地の一部に該当するから、前記換地処分の際に、別紙目録(四)に記載の土地につき、右賃借権の指定がなされなかつたとしても被告新宅梅男は、当然に、右土地に対し賃借権を有するものである。

3  仮に、右主張に理由がないとしても、次のとおり原告は、訴外浜田敏夫と訴外新宅梅太郎との、右2の(二)に記載の賃貸借契約を追認したものである。すなわち、

(一) 訴外浜田敏夫は、昭和二九年に、原告に対し、訴外亡浜田ナミの前記遺言の無効確認を求める訴を大阪地方裁判所に提起し(同庁昭和二九年(ワ)第二五三四号)、原告は訴外浜田敏夫に対し、旧一六六番の一や旧一六七番の一の各土地その他の、同人所有名義に登記されている物件が、包括遺贈によつて原告の所有になつとして、右各物件が現に原告の所有であることの確認と右登記の抹消登記手続等を求める旨の反訴(同庁同年(ワ)第四〇二六号)を提起し、昭和四二年四月二五日、右浜田敏夫の本訴請求棄却本件原告の右反訴請求認容の判決がなされた。

(二) 右第一審判決に対して、右浜田敏夫は大阪高等裁判所に控訴を提起し、本件原告も附帯控訴を提起した(同庁昭和四二年(ネ)第七一八号、同年(ネ)第一二一六号)。

(三) そして、右事件の控訴審において、昭和四五年九月一八日、訴外浜田敏夫と本件原告との間で、(1)本件原告は、亡浜田ナミの遺産の一部が死因贈与によつて右浜田敏夫の所有となつたことを認め、(2)右浜田敏夫は、その余の遺産が包括遺贈によつて本件原告の所有となつたことを認めるとともに、(3)本件原告は、訴外浜田敏夫が右本件原告所有の土地の一部についてした処分を追認して、右土地につき所有権に基づく一切の請求権を放棄し、(4)旧一六六番の一の土地、旧一六七番の一の土地の物件について、訴外浜田敏夫の従前の占有による損害金の支払を免除する、旨の裁判上の和解が成立した。

(四) しかして、右和解により、原告は、訴外浜田敏夫が原告の受遺物件についてなした処分行為をすべて追認したというべきであり、前記2の(二)に記載の訴外浜田敏夫と訴外亡新宅梅太郎との間に締結された賃貸借契約も追認してこれを有効と認めたものというべきである。

なお、右(三)の(4)に記載の損害金の支払の免除については、右新宅梅太郎への貸地部分を除くとの約定になつているが、右約定は、訴外浜田敏夫と本件原告との間の、右和解成立までの賃料の清算関係を示したものとみ解すべきであり、その清算も右和解全体の趣旨から既に終了していると解すべきであるから、右のように定められていることも、右和解によつて、本件原告が、訴外浜田敏夫と訴外新宅梅太郎との間の前記賃貸借契約を追認したものと解することの妨げとなるものではない。

4  そして、訴外亡新宅梅太郎は、昭和四七年一二月二三日に死亡し、被告新宅梅男は、協議による遺産分割により、右同日、右新宅梅太郎の別紙目録(四)に記載の土地に対する前記2又は3に記載の賃借権を単独相続したものである。

5  仮に、以上の主張に理由がなく、前記3の(三)に記載の裁判上の和解において、原告の訴外新宅梅太郎あるいはその相続人である被告新宅梅男に対する別紙目録(三)に記載の建物収去及び同目録(四)に記載の土地明渡請求の根拠がことさらに残されているものとすれば、右和解は、次のとおり、訴外新宅梅太郎及びその承継人である被告新宅梅男に対する関係においては公序良俗に反するものであり、ひいては本訴原告の被告新宅梅太郎に対する本訴請求は、権利の濫用であつて許されない。すなわち、

(一) 右和解は、本件訴訟提起後三年を経てなされたものであり、本件訴訟の係属を熟知する当事者間でなされたものである。すなわち、訴外浜田敏夫は、当時本訴訟において被告らに補助参加していたし、前記控訴事件における同人の訴訟代理人は、本件訴訟における当時の本件被告らの訴訟代理人であつたし、前記控訴事件における本件原告の訴訟代理人訴外千田専治郎は、当時本件訴訟の原告(亡浜田ナミ遺言執行者として)の地位にあつた。

(二) 従つて、右当事者間で和解するについては、条理上当然に、本件被告らに不利にならないように解決されるべきであり、同被告らに秘密裡に、同被告らの生活の根拠を奪うような解決はなされるべきではない。そのことは、前訴控訴事件の訴外浜田敏夫及び本件原告の各訴訟代理人である各弁護士の社会的使命からしても当然である。

しかるに、原告が右浜田敏夫との裁判上の和解において、本件被告らに対する建物収去土地明渡の根拠を残し、被告新宅梅男に対し、別紙目録(三)に記載の建物を収去して同目録(四)に記載の土地の明渡を求めることは、権利の濫用であつて、許されるべきではない。

6  原告の後記四の4の主張は争う。

四、被告らの右二、三の主張に対する原告の認否並びに主張

1  被告永井スエコの前二の2ないし4の主張は争う。

同二の5の主張のうち、被告永井スエコ主張の土地について、その主張の如き仮に賃借権の目的となるべき部分の指定及び換地処分がなされたことは認めるがその余は争う。

同二の6の主張は争う。

2  被告の永井スエコは、亡浜田ナミの遺言執行者千田専治郎が、被告永井スエコに対し、延滞賃料の支払催告及び停止条件付解除の意思表示をなした昭和四二年五月当時、原告が従前地である旧一六六番の一等の土地の所有権取得登記を経由していなかつたから、原告及び右遺言執行者千田専治郎らは、被告永井スエコが賃借していた旧一六六番の一の土地の所有権取得及びその賃借人たる地位の取得を主張し得ないと主張している。しかしながら、亡浜田ナミの遺言執行千(ママ)田専治郎が選任されると共に旧一六六番の一等の土地の処分権は右遺言執行者に専属し、亡浜田ナミの相続人は、右土地に対する一切の管理処分権を喪失するから、相続人の賃料受領行為は無効である。そして、このようなところからすれば、被告永井スエコは、民法一七七条の第三者に該当せず、亡浜田ナミの遺言執行者千田専治郎は、原告が右土地の所有権取得登記を経由していなくても、被告永井スエコに対し、前記賃料の支払催告及び停止条件付契約解除を有効になし得るものというべきである。

3  仮に、原告主張の請求原因4に記載の解除の主張に理由がないとしても、以下に述べるとおり、被告永井スエコ主張の土地部分を、同被告の有する賃借権の目的となるべき土地として指定した換地処分は、当然無効であり、同被告は、その主張の土地部分について、賃借権を有するものではない。すなわち、

(一)(1) 被告永井スエコは、従前、旧一六六番の一の土地のうち48.00平方メートル、同番の二の土地及び旧一六七番の一の土地のうち61.09平方メートルの三筆合計109.09平方メートルの土地を使用していたのに、本件区画整理事業施行者の東大阪市は、右使用土地部分が、旧一六六番の一の土地のみであると誤認し、その換地である四八番の土地のうち98.57平方メートルもの部分を、同被告の賃借権の目的となるべき部分と指定する旨の換地処分をした。

(2) ところで、換地処分における賃借権の目的となるべき部分の指定は、従前地の使用状態に照応した状態をその換地について作り出すべきもの(土地区画整理法八九条)であり、従前地における賃借地面積以上の賃借地を換地上に設定する権限は、区画整理事業施行者にはないものである。

それにもかかわらず、東大阪市は、右のとおり被告永井スエコに対して、旧一六六番の一の従前地における賃借部分が48.00平方メートルにすぎないのに、その換地である四八番の土地について、その二倍にも相当する98.57平方メートルもの土地を指定した(因みに、旧一六六番の一の従前地の基準地積は856.46平方メートルであり、その換地は703.87平方メートルに譲歩されている。)ものであり、右指定は明らに照応原則に反し、許されないものである。

(3) また、東大阪市は、旧一六六番の従前地における被告永井スエコの賃借地面積を実測し、かつ、換地計画の一環として、従前地やその賃借部分等を表示する縮尺図を作成した(土地区画整理法施行規則一二条)のであるから、その過程で同被告の従前地における使用面積を当然知りえたし、また知るべきであつた。

(4) 以上のように、被告永井スエコに対する東大阪市の換地処分(賃借権の目的となるべき部分の指定)は、従前地における同被告の借地範囲を誤認し、その結果照応の原則に反する指定を行つたものであつて、行政行為として重大な瑕疵があるというべきであり、かつ、右瑕疵は施行者である東大阪市に明白であり、少なくとも従前地の切図を一見すれば何人にも容易に右誤認の事実が明らかになる性質のものであるから、右指定処分は、行政処分として当然無効である。

(二) そして、旧一六六番の一の土地については、四八番の土地がその換地と指定されたものであるところ同被告は、旧一六六番の一の土地の全部でなく、その一部について賃借権を有していたにすぎないから右賃借権の目的となるべき部分の指定が前記の通り当然無効である以上、同被告の賃借権が右四八番の換地のどの部分について存続することになるのか特定することができず、その結果同被告は、右換地については賃借権を主張し得ないことになる。

4  次に、被告新宅梅男の前記三の2の(一)の主張事実のうち、現在別紙目録(四)に記載の土地のあるところが、換地処分前の旧一六七番の一の土地の一部に当ること旧一六七番の一の土地が、もと訴外浜田ナミの所有であつたことは認めるが、その余は争う。同2の(二)の事実は不知。同2の(三)及び(四)は争う。

同三の3は争う。

同三の4の事実のうち、訴外新宅梅太郎がその主張の日に死亡したことは認めるが、その余は争う。

同三の5は争う。

5  旧一六七番の一の土地は、旧一六六番の一の土地と同様、原告が、亡浜田ナミからの包括遺贈によつてその所有権を取得したが、同原告は、昭和四六年七月七日、これを訴外大東鋼業株式会社に売却した。

そして、旧一六七番の一の土地については、昭和四一年一一月一〇日に、本件仮換地とは異なる同ブロツク符号七の一の宅地がその仮換地として指定され、次いで、右旧一六七番の一の土地は、昭和四八年一一月一七日に公告された換地処分により、東大阪市長田西一丁目三七番の土地(以下三七番の土地あるいは換地という。)となつた。

従つて、仮に訴外新宅梅太郎が旧一六七番の一の土地のうち現在の別紙目録(四)に記載の土地に相当する土地部分について、賃借権を時効取得し、被告新宅梅男がこれを相続したとしても、右賃借権は、旧一六七番の一の土地の換地である右三七番の土地について存続しうるのみであつて、旧一六六番の土地の換地である別紙目録(四)に記載の土地に存続するものではない。

五、反訴請求原因

1  別紙目録(四)に記載の土地は、原告の所有である。

2  しかるところ、訴外亡新宅梅太郎は、被告新宅梅男の前記主張三の2の(一)ないし(三)に記載のとおり、昭和三九年四月六日の経過により、右土地について、原告に対する、反訴請求の趣旨1に記載のとおりの賃借権を時効により取得した。

3  仮に右主張に理由がないとしても、被告新宅梅男の前記主張三の3に記載のとおり、原告は、昭和四五年九月一八日、訴外浜田敏夫との間でなした裁判上の和解により、訴外新宅梅太郎と右浜田との間で昭和二九年四月七日に締結された賃貸借契約を追認した。

4  そして、被告新宅梅男の前記主張三の4に記載のとおり、同被告は、右2あるいは3に記載の賃借権を相続により取得したものである。

5  ところが原告は、被告新宅梅男の右賃借権を争つて本件訴訟(本訴)を提起している。

6  よつて被告新宅梅男は、原告との間において、別紙目録(四)に記載の土地につき、反訴請求の趣旨1に記載のとおりの賃借権を有することの確認を認める。

7  なお、原告の後記六の2の主張は争う。

六、反訴請求原因に対する原告の認否並びに主張

1  反訴請求原因1の事実は認める。

同2ないし4に対する認否は、原告の前記四の4に記載の認否と同一である。

同5は認める。

2  被告新宅梅男の反訴請求原因に対する原告の主張は原告の前記四の4に記載の主張と同一である。

第三  証拠関係<略>

理由

第一本訴関係

一1  まず、旧一六六番の一の土地が、もと訴外亡浜田ナミの所有であつたことは当事者間に争いがなく、右事実に、<証拠>を総合すると、亡浜田ナミは、昭和二八年一一月七日、その財産を原告に包括遺贈する旨の遺言書を作成し、同月一七日に死亡したので、原告は、右同日、包括遺贈によつて、旧一六六番の一の土地の所有権を取得したこと、が認められ<る。>

2  次に、旧一六六番の一の土地については、その後原告主張の通り仮換地の指定がなされ、(その効力発生の日は昭和四一年一一月一〇日)、次いで昭和四八年一一月一七日に公告された換地処分の結果、旧一六六番の一の土地は、東大阪市長田西一丁目四八番地703.87平方メートルの土地となつたこと、その後原告が、昭和四九年二月五日、四八番の土地を、同所四八番一の土地(その一部が別紙目録(二)に記載の土地)同所四八番二の土地(別紙目録(四)に記載の土地)、その他同所四八番の三ないし九の各土地を分筆したこと、以上の事実については、いずれも当事者間に争いがない。

3  してみると、原告は、右仮換地指定の効力発生の日以後前記換地処分公告の日までは、本件仮換地について、旧一六六番の一の土地所有権と同一内容の使用収益性を有していたものであり、また右換地処分公告の日の翌日である昭和四八年一一月一八日から引続き現在まで四八番の土地(前記分筆後は、分筆された各土地)の所有権を有しているものというべきである。

二次に、原告の被告永井スエコに対する本訴請求について判断する。

1 被告永井スエコが別紙目録(二)に記載の土地のうち、別紙図面に表示のイロハニホイの各点を順次直線で結んだ線内の土地部分を占有していることは、右当事者間に争いがない。

2  次に賃料額の点を除き、被告永井スエコの亡夫永井久太郎が、亡浜田ナミから、旧一六六番の一等の土地のうち、別紙目録(一)に記載の建物の敷地部分の土地(但し、その正確な地積の点は除く)を、建物所有の目的で賃借し、右土地上に別紙目録(一)に記載の建物を所有していたこと、その後右永井久太郎が死亡し、被告永井スエコが相続により右建物の所有権及び土地の賃借権を取得したこと、はいずれも右当事者間に争いがなく、<証拠>によると、亡永井久太郎及び被告永井スエコが別紙目録(一)に記載の建物の敷地として従前賃借使用していた土地は、旧一六六番の一、二及び旧一六七番の一の土地の各一部であること(この点は後記4で詳述)、亡浜田ナミ死亡当時の右土地の賃料額は、一か月金61.20円であつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

3  次に、<証拠>によると、昭和二九年五月一日、訴外千田専治郎が亡浜田ナミの前記遺言執行者に就任し、またその後四六年六月右遺言執行を辞任してその任務を終了したことが認められ、右認定に反する証拠はない。

そして、右亡浜田ナミの遺言執行者千田専治郎が被告永井スエコに対し、昭和四二年五月二三日付書面で右書面到達の日から五日以内に、昭和二九年五月一日から同四二年五月二三日までの右賃料全額を支払うよう催告するとともに、右期間内に支払わないときは、右賃貸借契約を解除する旨の意思表示をし、右書面は翌二四日に同被告に到達したこと、以上の事実は、右当事者間に争いがない。

4  ところで、被告永井スエコは、前記賃借地の賃借権者として、その賃借地の所有者に対して、その所有権取得登記の欠缺を主張する利益を有する第三者であるところ、原告は、亡浜田ナミの遺言執行者千田専治郎が右契約解除の意思表示をした当時、旧一六六番の一の土地について、その所有権取得登記を経由していなかつたから、同被告に対し、原告が右土地の所有者あるいは賃貸人であることを対抗できないとして、遺言執行者千田専治郎のなした右賃料の支払催告及び契約解除の意思表示は無効であると主張しているので、この点について判断する。遺言執行者が選任された場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げる行為をすることはできず(民法一〇一三条参照)却つて、遺言執行者が相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をすることができるのであつて(民法一〇一二条参照)、通常は、遺産の目的である不動産(相続財産)が他に賃貸されているようなときには、遺言執行者は、右不動産の管理行為として、賃借人からその賃料を取り立てる権利義務を有するものと解せられる(大審院・昭和二年九月一七日判決・民集六巻一〇号五〇一頁参照)、しかしながら、遺産の全部が特定人に包括遺贈された場合で、しかも他に遺贈分を有する相続人がいない場合には、遺産の全部が当然かつ確定的に包括受遺者に承継されるところ、包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有し(民法九九〇条参照)、また、遺言執行者は、相続人の代理人とみなされるから(民法一〇一五条参照)、遺産全部が特定人に包括遺贈された場合であつて、しかも他に遺留分を有する相続人がいない場合には、遺言執行者が相続財産の管理を行うのは、右包括受遺者のためにその代理人としてこれを行うものであつて、包括受遺者が第三者に主張し得ない権利を前提としてその管理保全に必要な行為をすることはできないものと解すべく、また、包括遺贈による受遺者の不動産所有権の取得や賃貸人たる地位の取得は、右不動商の所有権取得登記を経由しなければ、右被告人から当該不動産を譲り受けた第三者やその他の第三者に対抗し得ないものと解すべきである。

<証拠>を総合すると、次の如き事実が認められる。すなわち、(一)、原告は、亡浜田ナミから同人の遺産全部を包括遺贈され、また、右浜田ナミの相続人は訴外浜田敏夫以外にはなく(他の相続人は相続放棄)、しかも、右浜田敏夫には、遺留分はなかつたこと、(二)、ところで、亡浜田ナミの遺産である旧一六六番の一、二、旧一六七番の一の土地については、亡浜田ナミの死亡した直後の頃から昭和四五年九月頃までの間、原告と訴外浜田敏夫との間において、原告が包括遺贈により右土地の所有権を取得したのか、或は、右包括遺贈は無効であつて、浜田敏夫が相続によりその所有権を取得したのかについて争いがあり、訴訟で争われていたこと(大阪地方裁判所昭和二九年(ワ)第二五三四号同第四〇二六号事件、大阪高等裁判所昭和四二年(ネ)第七一八号、同一二一六号事件)、(三)、そして、右旧一六六番の一、二、旧一六七番の一の各土地については、訴外浜田敏夫が昭和二八年一一月一七日付相続を原因として、同二九年二月三日その所有権移転登記を経由し、その後同四五年一〇月二八日まで右同人が登記簿上の所有名義人であつたが、その後右昭和四五年一〇月二八日右浜田敏夫の経由していた所有権移転登記は抹消され、原告が、右同日、昭和二八年一一月一七日付包括遺贈を原因として、その所有権移転登記を経由したこと、(四)、次に、亡永井久太郎及びその相続人である被告永井スエコは、右一六六番の一、二、旧一六七番の一の各土地の登記簿上の所有名義人が、前記の如く、訴外浜田敏夫となつており、かつ、同人が右土地の所有権を相続により取得し、かつ、被告永井スエコらに対する右土地の賃貸人たる地位も承継したと主張して、その賃料の支払を強く求めたので、右土地の賃料を、昭和四五年八月頃の分までは、右浜田敏夫に支払い、その後の賃料は引続き現在まで原告宛に供託をしていること、以上の如き事実が認められ、<る。>

してみれば、亡浜田ナミの遺言執行者である千田専治郎が前述の賃料の支払催告及び停止条件付契約解除の意思表示をした昭和四二年五月当時には、原告は、旧一六六番の一、二、旧一六七番の一の各土地について、未だその所有権取得登記を経由していなかつたから、右各土地の一部の賃借人である被告永井スエコに対し、その賃貸人たることを主張し得ず、したがつて、賃料の支払請求をすることもできなかつたものというべきところ、原告は、亡浜田ナミからその遺産全部の包括遺贈を受けたものであつて、亡浜田ナミの遺言執行者である千田専治郎は、実質的には包括受遺者である原告のためにその代理人として旧一六六番の一、二、旧一六七番の一の各土地を管理するものであるから、右違言執行者である千田専治郎が、その賃借人である被告永井スエコに対し、賃料の支払催告をし、かつ、その支払のない場合には賃貸借契約を解除することはできなかつたものというべきである。

よつて、亡浜田ナミの遺言執行者である千田専治郎のなした前記賃料の支払催告及び停止条件付契約解除の意思表示は無効というべきであるから、被告永井スエコの前記賃借地に対する賃借権は、右解除により消滅したとの原告の主張は失当である。

5  次に、本件仮換地のうち、別紙目録(一)に記載の建物の敷地で、別紙図面に表示のイロ''ロ'ニ'ホイイ'の各点を順次直線で結んだ線内の土地部分につき、仮に賃借権の目的となるべき部分の指定がなされ(その効力発生の日は昭和四八年六月三日)、次いで、昭和四八年一一月一七日に公告された換地処分の換地計画において換地後の四八番の土地のうち概ね別紙図面に表示のイロ''ロ'ハ'ニ'ホイイ'の各点を順次直線で結んだ線内の土地部分につき、賃借権の目的となるべき部分を定める旨の指定がなされたこと、以上の事実は、被告永井スエコとの間において争いがない。

ところで、原告は、本件土地区画整理事業施行者東大阪市がなした被告永井スエコに対する右賃借権の指定等に関する処分は、東大阪市が、同被告の従前地(旧一六六番の一の土地)における同被告の賃借使用面積等を誤認してなしたものであり、照応の原則に反し行政行為として、重大かつ明白な瑕疵があるから、当然無効である旨の主張をするが、右原告の主張事実を窺わせる趣旨の原告本人尋問の結果はたやすく信用できず、他に右指定処分が当然無効であることを認め得る証拠はない。

却つて、<証拠>を総合すると、次の如き事実が認められる。すなわち、(1)、別紙目録(一)に記載の建物の敷地で、従前、亡永井久太郎やその相続人の被告永井スエコが現実に賃借使用していた土地は、公図に照らしてみると、客観的には、旧一六六番の一の土地の外に、同番の二の土地及び旧一六七番の一の土地の各一部にも該当すること、(2)、しかし、亡浜田ナミや亡永井久太郎・被告永井スエコらに右土地の賃貸人・賃借人らは亡永井久太郎や被告永井スエコが別紙目録(一)に記載の建物の敷地として現実に賃借使用していた土地は、すべて旧一六六番の一の土地の一部と考え、同番の二や旧一六七番の一の土地が、右賃借土地のなかに含まれているとは考えていなかつたこと、(8)、そのために、別紙目録(一)に記載の建物も、登記簿上は旧一六六番の一の土地上にあるものとして登記されており、亡浜田ナミの遺言執行者である千田専治郎が本訴を提起した際にも、被告永井スエコに対し、別紙目録(一)に記載の建物は単に旧一六六番の土地上にあるとして、その敷地部分すなわち旧一六六番の一の土地の明渡を求めているに過ぎず、右建物の敷地部分に、旧一六六番の二及び旧一六七番の一の土地が含まれているとして右一六六番の二及び一六七番の一の土地の明渡を求めるようなことはしていないこと(本件訴状参照)、(4)このようなことから、被告永井スエコが、昭和四八年三月五日付をもつて、本件土地区画整理事業施行者の東大阪市に、別紙目録(一)に記載の建物の敷地の賃借権の申告をする際にも、右賃借土地は、すべて旧一六六番の一の土地の一部であり、かつ、その面積は四〇坪(132.23平方メートル)であるとして申告しこれに基づいて、東大阪市も、被告永井スエコの賃借土地は、すべて旧一六六番の一の土地の一部であり、その面積は109.09平方メートルであるとし、右109.09平方メートルの土地に対する賃借権を従前の賃借権として、旧一六六番の一の仮換地である本件仮換地のうち、別紙図面に表示のイ'ロ''ハ'ニ'ホイイ'の各点を順次直線で結んだ線内の土地部分に、仮に右賃借権の目的となるべき部分の指定をし(甲第三一号証の四、丙第二号証各参照)、ついで、旧一六六番の一の換地である四八番の土地のうち概ね右図面に表示のイ'ロ''ロ'ハ'ニ'ホイイ'の各点を順次直線で結んだ線内の土地部分に、右賃借権の目的となるべき部分の指定をしたこと、(5)、そして、旧一六六番の二及び旧一六七番の一の土地については、被告永井スエコの賃借権はないものとして、その仮換地上や換地上に、被告永井スエコの賃借権に基づく仮に賃借権の目的となるべき部分の指定や右賃借権の目的となるべき部分の指定を特にせず、いわゆる負担のない仮換地の指定や換地処分をしたこと、以上の如き事実が認められ、<る。>してみれば、別紙目録(一)に記載の建物の敷地で、従前被告永井スエコが賃借していた土地は、旧一六六番の一の土地の外同番の二及び一六七番の一の土地にも跨つていたけれども、東大阪市のなした本件仮換地上の仮に賃借権の目的となるべき部分の指定及び換地上の右賃借権の目的となるべき部分の指定は、原告主張の如く、従前の被告永井スエコの賃借権が、旧一六六番の一の土地のうち四八平方メートルについてのみ存在するものとし、右四八平方メートルに対する賃借権について、本件仮換地上の仮に賃借権の目的となるべき部分の指定及び換地上の右賃借権の目的となるべき部分の指定をしたものではなく、実質的には、被告永井スエコが、旧一六六番の一、二、及び旧一六七番の一の各土地一の部づつの合計109.09平方メートルの土地全部について有していた賃借権について、本件仮換地上に仮に賃借権の目的となるべき部分の指定及び換地上に賃借権の目的となるべき部分の指定をしたものであつて、ただ、右指定をするに際し、従前の賃借権の存在していた土地の表示として、旧一六六番の一、二、旧一六七番の一の土地の各一部とすべきであつたのに、旧一六六番の一の土地の一部と誤つて表示したに過ぎないものというべきである。

したがつて、本件仮換地上の仮に賃借権の目的となるべき部分の指定及び換地上の賃借権の目的となるべき部分の指定は、原告主張の如く照応の原則に反するものではなく、右各指定処分には重大かつ明白な瑕疵があるとははいい難いから、右指定処分が当然に無効である、との原告の主張は失当である。

6  してみると、被告永井スエコは、(イ)前記本件仮換地指定以後前記換地処分までは、本件仮換地のうち、別紙図面に表示のイロハニホイの各点を順次直線で結んだ線内の土地部分について従前の賃借権と同一内容の使用収益権を有し、右使用収益権に基づき、適法に、本件仮換地のうちの右土地部分に別紙目録(一)に記載の建物を所有して右土地部分を占有していたものであり(なお、被告永井スエコに対する本件仮換地上の賃借権の目的となるべき部分の指定の効力発生の日時は、前記の通り、昭和四八年六月三日とされているけれども<証拠>によれば、右効力の発生の日時が昭和四八年六月三日とされたのは、被告永井スエコからの本件土地区画整理事業に対する賃借権の指定申告が昭和四八年三月五日になされたことによるものであつて、右賃借権の目的となるべき部分の指定は、その申告さえあれば、本件仮換地の指定がなされた当時において当然なさるべき関係にあつたことが認められるところ、このような場合には、右指定の効力の発生前においても、被告永井スエコの右仮換地の占有は、不法占有になるものではないと解される)。(ロ)前記換地処分の公告の日の翌日以後は、前記換地処分により、従前の土地上に有していた賃借権を別紙図面に表示のイ'ロ''ロ'ハ'ニ'ホ'イイ'の右点を順次直線で結んだ線内の土地上に有することとなり、右賃借権に基づいて、適法に、別紙目録(二)に記載の土地のうち別紙図面に表示のイロ'ハ'ニ'ホイの各点を順次直線で結んだ線内の土地上に同目録(一)に記載の建物を所有して右土地を占有しているものというべきである。そして別紙目録(二)に記載の土地のうち、右以外の部分の土地については前記の通り、被告永井スエコがこれを占有していることを認め得る証拠はない。

そうだとすれば、その余の点について判断するまでもなく、別紙目録(二)に記載の土地の所有権(前記換地処分の公告の日以前の賃料相当損害金の請求については、本件仮換地のうち右土地と同一部分の使用収益権)ないしは前記賃貸借契約の終了に基づき、被告永井スエコに対し、別紙目録(一)に記載の建物を収去して同目録(二)に記載の土地の明渡、並びに、賃料相当の損害金の支払を求める原告の本訴請求は、いずれも理由がない。

三次に、原告の被告新宅梅男に対する本訴請求について判断する。

1  まず、訴外亡新宅梅太郎が、遅くとも昭和四七年八月三一日以降、本件仮換地のうち、別紙目録(三)に記載の建物の敷地で、現在の別紙目録(四)に記載の土地に相当する土地部分に、同目録(三)に記載の建物を所有して右土地を占有していたこと、同年一二月二三日、同人が死亡した後は、被告新宅梅男が、協議による遺産分割によつて、右土地及び建物に関する亡新宅梅太郎の権利義務を単独相続し、引続き右土地(前記換地処分後は、四八番の換地のうち別紙目録(四)に記載の土地に相当する土地部分、前記分筆後は、右目録(四)に記載の土地)上に右建物を所有して右土地を占有していること、以上の事実は、原告と被告新宅梅男との間において争いがない。

2  次に、被告新宅梅男は、その主張四の2に記載のとおり、訴外亡新宅梅太郎が右土地について賃借権を時効取得し、これを同被告が相続した旨主張するので、この点について判断する。

(一) まず、現在別紙目録(四)に記載の土地のあるところ、すなわち、別紙目録(三)に記載の建物の敷地部分が、もと旧一六七番の一の土地の一部であつたこと、旧一六七番の一の土地がもと亡浜田ナミの所有であつたことは、原告と被告新宅梅男との間に争いがなく右事実に、<証拠>を総合すると、亡浜田ナミの死亡により、旧一六七番の一の土地についても、原告が包括遺贈によつてその所有権を取得したけれども、右土地については、昭和二九年二月三日、訴外浜田敏夫が相続を原因とする所有権移転登記を経由し、かつ、同人は、亡浜田ナミの相続人であつて、右土地は同人の所有であると主張していたこと、このため、訴外亡新宅梅太郎は、右浜田敏夫が旧一六七番の一の土地の所有者であると信じて、昭和二九年四月七日、同人から右土地及びこれに隣接する土地のうち、別紙目録(三)に記載の建物の敷地部分で現在の別紙目録(四)に記載の土地にあたる部分を、賃料は一か月金四五円とし、建物所有の目的で、期間の定めなく賃借したこと、その後右新宅梅太郎は、昭和二九年六月一〇日ころ右土地上に別紙目録(三)に記載の建物を建築所有し、以後昭和四五年六月ころまで、訴外浜田敏夫に対して、右土地の賃料(但し、昭和三七年ころからは一か月金九〇円、昭和三九年四月分からは一か月金一八〇円、昭和四二年四月分からは一か月金三三〇円)を支払い、平穏公然と右土地部分を賃借使用してその権利を行使していたこと、なお、亡新宅梅太郎が賃借使用していた土地のなかには、旧一六七番の一の土地の一部の外、旧一六六番の二などの土地も一部含まれていたこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

(二) ところで、右事実に、前記一の2及び三の1に記載の争いのない事実に、<証拠>を総合すると訴外新宅梅太郎は、右認定のとおり、訴外浜田敏夫から旧一六六番の一、二、及び旧一六七番の一の土地のうち、現在の別紙目録(四)に記載の土地にあたる土地部分すなわち別紙目録(三)に記載の建物の敷地を賃借してこれを占有使用していたのであるけれども、その後右賃借土地は、本件仮換地の指定によつて、同一六六番の一の土地の仮換地上に位置することとなつたこと、次いで、訴外亡新宅梅太郎の死亡によつて、右土地及びその地上の別紙目録(三)に記載の建物に関する権利義務は、被告新宅梅男が相続したこと、その後、前記換地処分によつて、別紙目録(三)に記載の建物の敷地部分は、旧一六六番の一の土地の換地である四八番の土地の一部となつことが認められる。

一方、旧一六七番の一、旧一六六番の二の土地の仮換地指定、換地処分等の経緯についてみるに、<証拠>によると、旧一六七番の一、旧一六六番の二の各土地については、同所五一九番の土地と共に一括して、本件仮換地の指定と同時に、本件仮換地の北側に隣接する本件区画整理事業施行地区九八ブロツク符号七の一宅地九三七平方メートルがその仮換地として指定されたこと、次いで昭和四八年一一月一七日に公告された換地処分によつて、旧一六七番の一、旧一六六番の二の各土地については、前記五一九番の土地と共に、東大阪市長田西一丁目三七番宅地937.68平方メートル(右三七番の土地は、四八番の土地の北側に隣接している。)をその換地とする旨の換地処分がなされたこと、なお、右換地処分は、その全部が現地換地ではなく、一部は飛地換地であること、そして、右亡新宅梅太郎が賃借使用していた土地部分に対する賃借権については、右仮換地上に仮に賃借権の目的となるべき部分の指定はなされず、また右換地上にも右賃借権の目的となるべき部分の指定はなされなかつたこと、以上の事実が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

(三) してみると、仮に被告新宅梅男の主張するように、訴外亡新宅梅太郎が、旧一六七番の一の土地の一部等別紙目録(三)に記載の建物の敷地について、昭和三九年四月九日の経過とともに、原告に対抗し得る賃借権を時効取得したとしても、右(二)に認定の事実関係からすれば、右賃借権については、前記換地処分に際し、換地上にその目的となるべき部分の指定がなされなかつたのであるし、また、旧一六七番の一及び旧一六六番の二の土地と旧一六六番の一の土地とは、それぞれ別個の土地がその換地とされ、しかも、そのすべてが現地換地ではなく、一部は飛地換地であつて、亡新宅梅太郎が従前有していた賃借権の目的となるべき部分が、右換地の何処に該当するかを特定することは全く不可能だというべきであるから、旧一六六番の一の土地の仮換地である本件仮換地あるいはその換地である四八番の土地上に、亡新宅梅太郎が従前有していた賃借権と同一の使用収益権あるいは賃借権が存続する余地はないというべきである。

従つて、その余の点について判断するまでもなく被告新宅梅男の前記時効取得を前提として、別紙目録(四)に記載の土地につき賃借権を有する旨の被告新宅梅男の主張は失当である。

3  次に、被告新宅梅男は、その主張四の3に記載の事由から、昭和四五年九月一八日、訴外浜田敏夫と原告との間で成立した裁判上の和解により、原告は、右浜田敏夫と訴外新宅梅太郎間で締結された現在の別紙目録(四)に記載の土地にあたる部分の旧一六七番の一の土地の一部(別紙目録(三)に記載の建物の敷地)についての賃貸借契約を追認した旨主張しているところ、仮に原告が、右賃貸借契約を追認(原告と訴外新宅梅太郎との間で、右賃貸借契約と同一内容の契約を締結することを承諾したという意味に解される。)したとしても、前記2の(二)及び(三)に記載したのと同一の理由により、右追認によつて、訴外新宅梅太郎が、旧一六六番の一の土地の仮換地である本件仮換地の使用収益権を取得し、あるいはその相続人である本訴被告新宅梅男が、その換地である四八番の土地もしくはその分筆後の別紙目録(四)に記載の土地上に右従前の賃借権と同一内容の賃借権を取得したものとはいえない。従つて、右追認を前提として、別紙目録(四)に記載の土地について賃借権を有する旨の被告新宅梅男の主張も失当である。

4  次に被告新宅梅男は、その主張四の5に記載の事由から、原告の被告新宅梅男に対する本訴請求は、権利の濫用であつて許されない旨主張するが、右主張は、被告新宅梅男主張の裁判上の和解において、ことさら右本訴請求の根拠が残されていることを前提とする趣旨の主張であると解せられるところ、右和解が被告新宅梅男主張のような趣旨のものであることを認め得る証拠はないし、また、原告の被告新宅梅男に対する本訴請求は、右和解に基づく請求ではなく、これとは別個の別紙目録(四)に記載の土地所有権に基づくものであるから、右裁判上の和解の当事者双方の代理人弁護士が、被告新宅梅男の主張のとおりであり、かつ、右裁判上の和解において、被告新宅梅男の不利にならないような解決がなされなかつたからといつて、右土地所有権に基づく原告の本訴請求が権利の濫用になるとは認め難く、他に、原告の本訴請求が権利の濫用となることを認める証拠はない。よつて、被告新宅梅男の右権利濫用の主張も失当である。

5  次に、別紙目録(四)に記載の土地(但し、前記換地処分の公告の日以前は、本件仮換地の一部)の賃料相当損害金の額について検討する。

前記2の(一)に認定の事実に<証拠>を総合すると、前記認定の訴外浜田敏夫と訴外新宅梅太郎との間の右土地の賃貸借契約における賃料は、昭和二九年四月七日からは、一か月金四五円、昭和三七年ころからは一か月金九〇円、昭和三九年四月分からは一か月金一八〇円、昭和四二年四月分から昭和四五年六月分ころまでは一か月金三三〇円であつたこと、しかしながら、右土地付近の更地価格は、昭和四五年九月当時においては、一平方メートル当り金四万二〇〇〇円(これに右土地の地積を乗じると、金三九二万四一四〇円)であり、また昭和四九年三月当時においては、一平方メートル当り金六万〇五〇〇円(これに右土地の地積を乗じると、金五五九万九二七五円)であること、そして、右更地価格を基準とした年六分の利回りは、昭和四五年九月からは年額金二三万五四四八円、昭和四九年三月ころからは年額金三三万五九五六円であること、以上のような事実が認められる。そして、以上の事実やさらに右土地に対する公租公課の負担等を考慮すれば、結局別紙目録(四)に記載の土地に対する昭和四七年八月ころからの賃料相当額は一か月二万円であり、また、同四九年三月ころからの賃料相当額は、一か月金二万八五〇〇円であると認めるのが相当であつて、右認定を左右するに足る証拠はない。

6  してみると、原告の被告新宅梅男に対する本訴請求は、別紙目録(四)に記載の土地の所有権(前記換地処分前の賃料相当損害金については、本件仮換地のうち、右土地と同一部分の使用収益権)に基づいて、同目録(三)に記載の建物を収去して右土地の明渡を求め、かつ、訴外新宅梅太郎が右土地を不法に占有し始めた後の昭和四七年八月三一日から昭和四九年二月末日までは一か月金二万円、昭和四九年三月一日から右明渡に至るまでは、一か月金二万八五〇〇円の各割合による賃料相当損害金(但し、右新宅梅太郎死亡前の分は、右被告がこれを相続したもの)の支払を求める限度において理由があり、その余の請求は失当である。

第二反訴関係

一反訴請求原因のうち、別紙目録(四)に記載の土地が原告の所有であることは、当事者間に争いがない。

二被告新宅梅男は、反訴請求原因として、訴外新宅梅太郎が旧一六七番の一の土地等の一部について賃借権を時効取得したとか、或は、訴外新宅梅太郎は、訴外浜田敏夫から右土地を賃借し、原告は、その後右浜田との賃貸借契約を追認したものであるとの旨の主張をし、これを前提として、別紙目録(四)に記載の土地につき、現に賃借権を有すると主張するが、右被告主張の賃借権が認められないことは、前記原告の被告新宅梅男に対する本訴請求に対する同被告の抗弁について判断した通りである(前記第一の三23参照)。

三よつて、その余の点につき判断するまでもなく、右賃借権の確認を求める被告新宅梅男の反訴請求は理由がない。

第三結論

以上の次第で、原告が被告永井スエコに対し別紙目録(一)に記載の建物を収去して同目録(二)に記載の土地の明渡を求め、かつ、右土地の賃料相当損害金の支払を求める原告の請求は、すべて理由がないからこれを棄却し、原告の被告新宅梅男に対する本訴請求は、別紙目録(三)に記載の建物を収去して同目録(四)に記載の土地の明渡を求め、かつ、昭和四七年八月三一日から同四九年二月末日まで一か月金二万円、同四九年三月一日から右明渡ずみに至るまで、一か月金二万八五〇〇円の各割合による賃料相当の損害金の支払を求める限度で理由があるから、右の限度でこれを認容しその余は失当であるからこれを棄却し、被告新宅梅男と原告との間で、別紙目録(四)に記載の土地について被告新宅梅男主張の賃借権の確認を求める同被告の反訴請求は、失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九二条、九三条を適用し、なお仮執行宣言を付することは相当でないのでこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

(後藤勇 名越昭彦 小西秀宣)

目録

(一)大阪府東大阪市長田西一丁目四八番一家屋番号四八番一

木造瓦葺平家建居宅

床面積 31.11平方メートル

付属建物

木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建居宅

床面積 17.24平方メートル

(二)大阪府東大阪市長田西一丁目四八番一

宅地 428.44平方阪メートルのうち、別紙図面に表示のイロハニホイの各点を順次直線で結んだ線内の部分102.00平方メートル

(三)大阪府東大阪市長田西一丁目四八番二家屋番号二三五番三

木造瓦葺平家建居宅兼店舗

床面積 23.63平方メートル

(四)大阪府東大阪市長田西一丁目四八番二

宅地 92.55平方メートル

以上

図面<省略>

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